脱力で生きていくためのブログ

プログラマーの雑記になります。書評多し。技術少なし。

書評:遮光(中村文則)

中村文則は、2005年 に第133回芥川龍之介賞(「土の中の子供」)受賞し、 2010年 には第4回大江健三郎賞(「掏摸」)を受賞した作家である。

 

中村文則の作品は一昔前の実存主義的要素を醸し出している。

 

それもそのはずで、作家の読書道 第152回:中村文則さん - 作家の読書道 のインタビュー記事を読むと、大学時代にはドストエフスキーやカミュなどのいわゆる実存主義作家の本を読み漁り、かなりの影響を受けたと答えられている。

 

そして、ここで紹介する「遮光」もその実存主義的な一面を醸し出している。

 

主人公は、自らの彼女が死んだことを受け入れられず、周囲の人間にも本当のことを打ち明けられずにいる。

 

周囲の人間には「彼女はアメリカに留学している」という嘘を付いているが、実際にはそうではない。

 

周囲の人間に彼女が生きているという嘘を付いているという点だけでも、明らかに異常をきたしているが、主人公は周囲への嘘だけではなく、彼女の指を死体安置所から持ち帰り、自らの部屋でホルマリン漬けにしている。

 

主人公は、死によって彼女との精神的な関わりを保つことができなくなったため、彼女という物体に固執し続けるのである。

 

それでもなお、一人称の主人公は冷静を保ち、ハードボイルドを気取っているのだが、求めているのは物体的な関わりではなくて、精神的な関わりであるため、ホルマリン漬けの指では彼の心は満たされることはない。

 

そして、そのことは徐々に主人公を狂乱へと導く。主人公が、狂乱するまでの一連の描写は秀逸である。

 

描写こそ異なるが、このあたりの主人公の精神的変遷は、ドストエフスキーの影響を強く感じる。

 

「遮光」は、冷静を保とうとしているが、実際には彼女の死を受け入れられずにいる主人公の葛藤を描いた作品である。

特にドストエフスキーやカミュなどの作品を読まれる方にはオススメしたい一冊である

 

 

以上

 

遮光 (新潮文庫)

遮光 (新潮文庫)